「情報技術の現代史」メモ 2019.06.20

2019.06.27に訂正(重複を削除)

質問票への回答のための資料 

  1. 講義のテーマに関連する映画(エリジウムを除く
  2. 攻殻機動隊新ビジュアル

前回までの資料から

鑑賞のポイントのリスト

  1. 現代(当時)の象徴としてのマシン 1m40s
  2. 労働者のシフト 2m23s 個性をはく奪され疲れ切った労働者たち
  3. 労働者の住居は Deep Blow に 3m49s
  4. Deep Below の逆 High Above 5m15s
  5. Maria の登場 「御覧あれがあなたたちの兄弟よ」 8m24s
  6. 恋に落ちた Freder は地下へ 11m56s
  7. M-machine (Heart machine) の暴走 12m54s
  8. 新バベルの塔とメトロポリス 16m14s
  9. メトロポリスの「頭脳」で 17m26s
  10. Josaphat 君、これはどういうことだ?19m45s 情報と命令のオーダー
  11. 労働者のチーフ Grot の登場 怪しい地図がまた二つ 24m42s
  12. 怒る Frederson. その理由は? 25m5s
  13. Josaphat君、君はクビだ 26m43s
  14. Rotwang キチガイ科学者 36m48s
  15. 秘密の集会 48m59s
  16. ロボット Maria 1h22m40s
  17. 扇動 1h38m42s
  18. 労働者の蜂起 1h45m20s
  19. Heart-Machine (M-Machine) を壊せ! 1h51m08s
  20. Heart-Machine (M-Machine) の暴走 1h52m58s
  21. 冷却水が… 1h54m28s
  22. 子供たちの危機 労働者の住居区は M-Machine の下にある 1h55m0s
  23. 子供たちの救出 1h59m35s
  24. 和解 2h22m52s
  25. Head, Hands and Heart 2h24m07s

分析

現実の歴史では?

様々な歴史的要因・社会的要因により「解消」された資本主義の悪夢

しかし、資本主義の負の面が消えたというのでは、全く無い。むしろ、ITや生命科学により、悪夢は再現されつつある。

その話の前に、日本の話を。

資本主義の問題の(一時的?)解消の要因の一つ「日本型モデル」

これ以下、歴史学から社会学へ: 歴史学で史料にもとづいて確認した系譜(スミス、バベッジ、マルクス、そして、アマゾン)の意味を社会学理論で考える(解釈する)。つまり、歴史的事実に意味を与える。

なぜ社会学か?

これからの話で社会学の理論が果たす役割:

二つの注意:

  1. 上の1と2を完全に分けることは難しい。  
  2. 歴史学という名前のものに社会学の理論が陽に使われることは少ない。

どの様な社会学理論がどういう風に使われるか:

まずは、ウェーバー社会学から。

ウェーバー官僚制論

ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Anthony Giddens, Sociology,7th edition, p.826 の記述を使って説明したもの

  1. 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。
  2. 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。
  3. メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 
  4. 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。
  5. 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。

注意:ギデンズの説明を、さらに林が纏めたもの。ウェーバー自身の言葉やリストによるものではない。たとえば、ウェーバーは「ピラミッド型」「トッ プ・ダウン」などの現代的用語は使っていない。これはギデンズによる。ウェーバーの元の説明は、ギデンズのもののように判り易くはない。

ウェーバーの官僚制の意味するもの

ウェーバーの意味の官僚制とは官僚という人間を部品とする組織機械のための設計思想

官僚制の悪口に使われる

は、それが人間という生身の存在を部品とする機械なのだから当たり前!丁度、バベッジとマルクスの分業論がローゼンバーグが弁証法的な裏返しとジョークを飛ばすほど似ているが表裏一体なのと同じ。

官僚制システムが効率的な理由と今まで見て来たものとの関連

官僚制システムの効率性の源その1 人間的要因

ここから今回の資料

官僚制システムの効率性の源その2 組織構造的・情報学的要因

実は、上のような話と全く違う、数学のような仕組みが官僚制の効率を支えている。

それは分業ということ。また、分業の効率性の根源は、「ツリー状、ピラミッド状の構造の効率性」ということ。

その「ツリー状、ピラミッド状の構造の効率性」の象徴は対数(高校では数学II)というもの。

対数は指数の逆。対数関数は指数関数の逆関数。

バベッジが当時の航海や砲撃なのどのために必要な数表を人間を介さず計算から印刷まで行うために階差機関を考え付いたことを説明したが、彼が作ろうとした数表の最も重要なものが、この対数の計算に使われる対数表であった。(もう一つ重要な表があり、それは三角関数の表だった。)

ツリー状・ピラミッド状のシステムとは

官僚制のシステムの説明で、それが形としてはピラミッド状、ツリー状だと説明した。

その意味は?

まず、ピラミッド状とツリー状の意味

ピラミッドとツリー(木) 一見なにも似ていないが??

ITにおけるツリー状ということの意味

ツリー状とピラミッド状は同じ意味 

今までに出てきたツリー・ピラミッド構造

ドプロ二―プロジェクトの人員配置だけでなく階差計算自体がツリー・ピラミッド構造を持っている

以後、ツリー・ピラミッドと言わず、単に、ツリーという。

なぜツリーは効率がよいのか?

いろいろな要素を無視して、簡単にいってしまえば、ツリー構造は仕事を分解する、つまり、分業化するということ。

ドプロニープロジェクト、階差計算がツリー構造をしているのはすでにみた。

これは仕事を分解して簡単な仕事に還元することにより、それを非熟練工に行わせていた。

仕事のプロセス、仕事を行う組織の双方に、分業化の構造が反映され両方ともツリーになっている。

仕事は分解すると効率が良い!

その理由は倍々ゲームの裏返しになるから

倍々ゲームとは: またの名をネズミ算。 曽呂利新左エ門 の話。湖を覆う水草の話としても有名。

倍々ゲームは人間の直観を超えるスピードで増加する。

それならば、一回ごとに半分になる「半々ゲーム」だと、直観を裏切るくらい小さくなることになる。

実は、辞書が、その仕組みをつかっていて、単語が簡単に引ける(探索する)ようになっている。

英和辞典の単語が5万項目あったとする。もし、それが単語カードのようにカードに書いてあって、5万枚のカードが、バラバラに箱の中に入っていたとする。Apple という単語を探すには、運が悪い場合(最後に見るカードが、それであった場合)、5万枚のカードすべてをチェックする必要がある。ただし、49,999枚については、「Apple ではない!」と、「排除していく」だけ。

これを実際にやったら、膨大な時間がかかる。ところが現実の辞書だと、すごく早く見つかる。これは単語がアルファベット順に並べられているから。この辞書を引くという作業が、二分探索の本質。

たとえば、Zoo という単語の場合、後ろの方になるので、最初から1単語ずつ探していくと、バラバラのカードと、あまり変わらない。しかし、実際の探索では、

  1. Zoo なので、Yまでのページは関係ない。それはすべて排除。(これで殆どのページが排除される。)
  2. Zで始まる単語のページの大体半分くらいを開いてみる。
  3. そのページの最初の単語が Zombie だったら、Zoo と最初の二文字が同じなので、三番目の m と o に注目する。
  4. o は m よりアルファベットの順で後にくるから、Zoo は、Zombie より後にあるはず。
  5. つまり、Zombie より前にある Z で始まる単語のページは探索する必要がなく、探索すべきページが、大体半分になった。
  6. これを繰り返せば、大雑把に言って、半分、半分、半分、と探索すべきページが減っていく。
  7. これが二分探索の原理。

実は、この探索法は、2分探査木と呼ばれるツリーの構造になっている。
辞書の項目が11万項目ほどあり、ページ数は1600だとしよう。裏表2ページのシートは800枚。
下の図のように考えれば、それはツリー状になっていると考えられる。

そして、このツリーの一番上の頂点から、「左に進む」か「右に進む」かを、各頂点で判断しながら、一番下に並んでいるページにたどり着く行程は、上に説明した二分探索の原理と、本質的には同じものだとわかるだろう(出だしの所が、少し違う!)。

サーチと人間の組織としての官僚制や官僚制的な組織との関係

関大も組織のひとつ。そのツリーの全体像

会社、政府、NPO、NGOなど、さまざまな機構や組織もすべてツリー。

基本的に組織の長の仕事の多くは、仕事を部下に割り振り指示を行うこと。

教育関係の仕事は教育担当に理事に振られ、その時点で他の理事は、その仕事と無縁となる(ただし、原則の話)。
これは英和辞典で、Zooを探すとき、半分にわけたページの片方が、「その中にZooはない」とわかって検索の範囲から
除外されるのと同じこと。

膨大なデータのうち、関係ないものを大量かつ高速に捨てていく(逆の言い方では関係があるものだけを絞り込んでいく)
ことができるかどうかが、高速に大量のデータ(仕事)をこなすポイント。

ツリーは、このように使われる。

この技法は、ITでは「分割統治」 divide and conquer とよばれるが、これはローマ帝国の統治方法のこと。
歴史上の大帝国のほとんどは、この方法を使って広大な領土や征服した民族を統治している。
元寇のときに攻めてきた兵隊が実は韓半島の人々だったというのもそれ。他にはオスマン帝国など。

つまり、近現代の統治装置、官僚制のツリーも、基本的には同じ仕組み

ツリー構造には、深く関連しながらも異なる二つの側面がある:

側面1は、ツリーの図などを使いながら上で説明した話。つまり、アダム・スミス、バベッジ、ド・プロニーの分業の効率性のこと。

側面2はウェーバー官僚制の定義で話した内容の幾つかを言い換えたもの。

ツリーとしての官僚制の欠点と Japan model による改善

先にギデンズの日本型モデルの話をしたが、ギデンズが日本型モデルの特徴としたものは、実はウェーバーの官僚制論の「官僚制の特徴」、特に側面2の特徴に反するものだった。

ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Anthony Giddens, Sociology,7th edition, p.826 の記述を使って説明したもの(先に示したもののコピー)

  1. 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。
  2. 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。
  3. メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 
  4. 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。
  5. 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。

これに対してギデンスの日本型モデルは、次の5つを特徴とした from Giddens "Sociology"(6th edition より):

  1. ボトムアップ型意思決定
  2. 非専門化傾向
  3. 確実な雇用
  4. グループ生産
  5. 仕事と従業員の個人的生活の融合

以上の5つを説明

小泉改革あたりからかなり様がわりしているが、日本の工業の強さが世界的に注目されて、21世紀は日本の世紀に なると言われていた Japan as No.1 の時代(一九七〇年代終わりからバブル崩壊まで)、日本企業の強さの原因としてあげられたものに次のようなものがある:

「グループ生産」以外は、これらの特徴が、ギデンズの1-5に相当する、あるいは、それを導くことがわかる。

そして、これらの多くが官僚制という言葉が与える「冷たい」「非人間的」「機械的」な印象に反するものになっている。

日本型モデルと感情労働: ブラック企業/ブラックバイト問題

2000年代後半からネットで使われるようになり、いまでは、すっかり定着している言葉にブラック企業がある。

「ブラック…」と言う言葉は「ブラックリスト」など、昔からあった言葉だが、「ブラック企業」以前は「犯罪的」というような意味で使われていた。

しかし、「ブラック企業」の「ブラック」には、それらと違う、独特のニュアンスがある。

ブラック企業は、

今では、ブラック企業は、普通に使われる、誰でも知っている言葉となり、また、ブラックバイトが問題となり、今では、「ブラック」という言葉が普通の形容詞として定着した感すらある。ブラック大学ブラック研究室など。

実は、このブラック企業が日本型モデルの負の側面が顕在化したもの。

日本型モデルは、官僚制が切り捨てた感情を、生産のために再導入した。それがブラック企業を生む結果となった。

そして、実は、日本に限らず、現代は、この「生産のための感情」「競争に勝つための感情という燃料」の問題が大きくなっている時代。

この意味での「ブラックな管理手法」こそ、映画メトロポリスには全く現れていなかった管理社会の新しい側面。

次に、メトロポリスで問題となった物理的・肉体的な管理や格差より、実は、もしかしたら、更に辛いものかもしれず、また、皆さんが近い将来に経験する可能性が高い、この問題を社会学の「感情労働」の理論を使い分析する。

続く…