「情報技術の現代史」メモ 2019.06.06

連絡事項:前回、指定した以外のフォーマットで質問票を記述した人が目立ちました。たとえば、2名が一枚の質問票に書いているなどです。今後、指定したフォーマットから外れた質問票への出席点の付与は行わないことにします。

前回までの資料から

バベッジとアダム・スミスを繋ぐもの

これが前回の講義の主な内容だった。内容略。

ダイジェスト的に言えば、

そして、今日はここから

バベッジの裏返しとしてのマルクス資本論における「分業論」

正確に言えば阻害論であって分業論ではないので「分業論」の様に括弧を付けた。

以上の分析で、最近、多く見られる「AIが知的仕事を奪う」という議論が、すでに1810-30年代のイギリスでバベッジの原理という、資本の論理と手を携えながら、登場していたことがわかる。つまり、労働者を機械部品とみなす現代資本主義と知的機械、ITやAIは、二卵性双生児だった。

そして、バベッジの On the Economy of Machinery and Manufactures の四半世紀後、バベッジが住んだ同じロンドンの大英図書館で、バベッジの分業論などを手がかりにしつつ、この「機械的仕事をする部品の様に使われる労働者」の問題を、バベッジと反対の側、つまり、労働者側から見て、後に20世紀の歴史を揺るがすことになる、一巻の経済学書を綴っていたひとりの亡命ドイツ人(プロイセンのユダヤ人)がいた。

それがカール・マルクス。そして、彼が書いていた経済学書こそが「資本論」。

実は、資本論の数か所でバベッジの On the Economy of Machinery and Manufactures が引用されているおり、それらを元にスタンフォード大学の経済史家 N. Rosenberg はバベッジの分業論がマルクスに影響を与えたと指摘した。以下、その話の解説。

マルクス主義、唯物弁証法、とくれば、階級闘争、プロレタリアートとブルジョアジーの対立の問題が思い起こされるが…

その様な、「バベッジの夢=マルクスの悪夢」が実現された社会は、どんなものか?

トヨタ、アマゾンという資本装置がブンブン唸っている現代日本社会は、「バベッジの夢=マルクスの悪夢」なのだろうか?

以下、これを社会学の理論を幾つか使って考えていく。

まず映画から入る

まずは、今は「遠い」過去のものになっているマルクス主義世界観を体感するために、マルクス主義世界観のもとに作られた、最初期のSF映画の傑作といわれる映画「メトロポリス」を見る。

無声映画でもあり、ストーリーが良く分からないと思うので、林が説明しつつみる。講義では、時間の関係で、全体を見ることはできず、ポイントだけを見る。特にポイントは、リストにしてあるので、これを参考に、できれば自分で全部見ておくと良い。無理ならばポイントだけでも見ておくこと。

鑑賞の際に、参考となるサイト:   特に登場人物の地位と、力関係、どこにいるか、特にその場所の高度に注意(場所が地位のメタファーになっている。機械の方が労働者より上…)。

Metoropolisの粗筋

Wikipedia から

登場人物

Metropolis Rescore

Metropolis Rescore はオーストラリアの作曲家Benjamin Speed が The New Pollutants というグループ名で、Metoropolis にサウンドトラックを付けたもの。

2時間27分12秒という長さからして、ブエノスアイレス版と思われる。

YouTube にあるので無料で見ることができる。画質もよい。

これを見る。

カラー化されたMetroplis: カラー化でかえって見にくいところもあり、また、ドイツ語版なので、以下では、英語版のモノクロ映像を使う。

鑑賞のポイントのリスト

  1. 現代(当時)の象徴としてのマシン 1m40s
  2. 労働者のシフト 2m23s 個性をはく奪され疲れ切った労働者たち
  3. 労働者の住居は Deep Blow に 3m49s
  4. Deep Below の逆 High Above 5m15s
  5. Maria の登場 「御覧あれがあなたたちの兄弟よ」 8m24s
  6. 恋に落ちた Freder は地下へ 11m56s
  7. M-machine (Heart machine) の暴走 12m54s
  8. 新バベルの塔とメトロポリス 16m14s
  9. メトロポリスの「頭脳」で 17m26s
  10. Josaphat 君、これはどういうことだ?19m45s 情報と命令のオーダー
  11. 労働者のチーフ Grot の登場 怪しい地図がまた二つ 24m42s
  12. 怒る Frederson. その理由は? 25m5s
  13. Josaphat君、君はクビだ 26m43s
  14. Rotwang キチガイ科学者 36m48s
  15. 秘密の集会 48m59s
  16. ロボット Maria 1h22m40s
  17. 扇動 1h38m42s
  18. 労働者の蜂起 1h45m20s
  19. Heart-Machine (M-Machine) を壊せ! 1h51m08s
  20. Heart-Machine (M-Machine) の暴走 1h52m58s
  21. 冷却水が… 1h54m28s
  22. 子供たちの危機 労働者の住居区は M-Machine の下にある 1h55m0s
  23. 子供たちの救出 1h59m35s
  24. 和解 2h22m52s
  25. Head, Hands and Heart 2h24m07s

分析

ここから今回の資料(冒頭部分だけ前回掲示した資料に追加をしたものになっている。)

現実の歴史では?

様々な歴史的要因・社会的要因により「解消」された資本主義の悪夢

しかし、資本主義の負の面が消えたというのでは、全く無い。むしろ、ITや生命科学により、悪夢は再現されつつある。

その話の前に、日本の話を。

資本主義の問題の(一時的?)解消の要因の一つ「日本型モデル」

これ以下、歴史学から社会学へ: 歴史学で史料にもとづいて確認した系譜(スミス、バベッジ、マルクス、そして、アマゾン)の意味を社会学理論で考える(解釈する)。つまり、歴史的事実に意味を与える。

なぜ社会学か?

これからの話で社会学の理論が果たす役割:

二つの注意:

  1. 上の1と2を完全に分けることは難しい。  
  2. 歴史学という名前のものに社会学の理論が陽に使われることは少ない。

どの様な社会学理論がどういう風に使われるか:

まずは、ウェーバー社会学から。

ウェーバー官僚制論

ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Anthony Giddens, Sociology,7th edition, p.826 の記述を使って説明したもの

  1. 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。
  2. 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。
  3. メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 
  4. 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。
  5. 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。

注意:ギデンズの説明を、さらに林が纏めたもの。ウェーバー自身の言葉やリストによるものではない。たとえば、ウェーバーは「ピラミッド型」「トッ プ・ダウン」などの現代的用語は使っていない。これはギデンズによる。ウェーバーの元の説明は、ギデンズのもののように判り易くはない。

ウェーバーの官僚制の意味するもの

ウェーバーの意味の官僚制とは官僚という人間を部品とする組織機械のための設計思想

官僚制の悪口に使われる

は、それが人間という生身の存在を部品とする機械なのだから当たり前!丁度、バベッジとマルクスの分業論がローゼンバーグが弁証法的な裏返しとジョークを飛ばすほど似ているが表裏一体なのと同じ。

官僚制システムが効率的な理由と今まで見て来たものとの関連

官僚制システムの効率性の源その1 人間的要因

以下次回以後に続く…