「情報技術の現代史」メモ 2019.05.30

質問票への回答のための資料

  1. 前回、質問票の時間の少し前に、かなりの数の人が入って来ましたが、これについて、「授業おわり10分くらいで来る人はなんなのですか」「授業おわり20分とかに来る人はいらないのでは?」 という意見がありました。 講義に殆ど出席していないのに、出席点を稼ぐためだけに最後に入室してくる人たちはズルい、そういう人たちに出席点を出す必要はないのではないかという意見でしょう。

前回の資料 から

この資料 20190530.html は、前回の 20190523.html の済んだ部分を削除したものです。それ以外は文字化してしまっていたリンクのURLを修正した以外には変更はありません。資料を数回分公開することがあるので、その時には予習をすすめることがあります。今回も映画の部分は、先に見て置いた方が分かりやすいと思いますので、予習をすすめます。

バベッジとアダム・スミスを繋ぐもの

  1. 1810年代の終わり、バベッジは、多項式を機械で計算する方法である階差原理を考え付き(再発明)、1820年代最初に実験機を作り、さらに本格的機械を作るプロジェクトを開始。
  2. その後、渡仏して、de Prony の仕事を知る。
  3. そして、それにより、スミスの分業論と自分の計算機の関係に気が付き、さらにバベッジの原理を発想。
  4. On the Economy of Machinery and Manufacturesを執筆出版。その中で、自分の計算機械と分業論を関係づけて議論。

上の1~4の説明の内、3が推測。他は史料で実証できる。

以下、この歴史過程を、バベッジの書籍の分析を中心にして説明していく。

On the Economy of Machinery and Manufactures, 1832  (機械と製造業の経済について 1832年刊)

Chap XX. 「知的労働の分業について」の内容目次

バベッジの本の歴史資料としてのポイントは二つ

この二つが分かる歴史資料が、Chap XX。

そこで、Chap XX の内容目次に沿って、この章を詳細に見ていく。分かり易くするために、目次の項目に、次の様にアルファベットをふる:

まず、(A) から説明を始める。

(A) フランスの大対数表 (§241-246)

この部分が、アダム・スミスとバベッジが人間コンピュータによって歴史的につながっていることを示す史料。

バベッジは、次のように、この章(Chap. XX) を始めている:

We have already mentioned what may, perhaps, appear paradoxical to some of our readers, ---that the division of labour can be applied with equal success to mental as to mechanical operations, and that it ensures in both the same economy of time.

和訳: 一部の読者にはパラドキシカルに聞こえるかもしれないが、すでに述べた通り、分業による時間の節約は、既に説明した機械的な作業だけでなく知的な作業にも等しく適用できることなのである。

バベッジは、「時間の節約」と言っているが、これは、この前章、つまり、Chap XIX で説明された、ピン工場でのバベッジの原理に基づく分業によってもたらされる「労賃支払の節約」のことである。

この様な文で開始される、Chap. XX 第20章の冒頭部分§241-246は、凡そ、次の様な内容である:

  1. 知的労働の分業が機械的操作(労働)の場合と同様に可能であり,それはどちらも時間の節約,時間の経済,に結びつく. (241)
  2. 歴史上最大規模に行われたフランスのド・プロニーの計算プロジェクトが,この考え方の現実性を説明している (242)
  3. その考え方の元はアダム・スミスの国富論にあることをド・プロニー自身が語っている。(243)
  4. ド・プロニーが考えた組織構造は三層構造による「知の分業」だった(244)
  5. 最下層の労働の量は大きいが、労働の価格は安くてすむ。
  6. 最上層の仕事は大変だが(extertions)、一度やれば済む。
  7. しかし、計算機(a calculating-engine) が作られて最下層を置き換える時には、数学的見直しが必要かもしれない。(245)

5は、バベッジの原理と同じ発想である。そして、それは計算という作業を分割(分業)することにより達成されていた。

この(A)の部分により、フランスの大対数表プロジェクトを解説することにより、バベッジは、第19章で議論したピン工場でのバベッジの原理、つまりは、筋肉労働のバベッジの原理による分業と同様のことが知的労働(この場合では、数学の計算)においても可能であることを示そうとしていることが分かる。

そして、1832年刊行の、この著書が書かれるより、ずっと以前の、1810年代に、計算機械のプロトタイプが作られていたことからして、この知的労働の分業の方が、筋肉労働の分業より、先に構想されていたと思われる。

3は、アダム・スミスの分業が知的労働に応用可能であることを、ド・プロニーを通して知ったことを示唆している。ただし、絶対にそうだとは言い切れないことに注意。

7は、バベッジが既に低賃金の機械的仕事をする労働者を、本当に機械で置き換えることを考えていたことを明瞭に示している。こちらは確定。

以上は、格差を許容する、というより、期待する、ような現代資本主義思想とコンピュータが手を携えるようにして登場したことを示している。

(B-C) 機械による算術計算の実行、数学的原理の説明: 階差による2乗の表 (§247-248)

この部分で、現在では、当たり前の、機械による「数学の計算」のような知的な活動の自動化という、当時としては容易に理解できなかった可能性について、バベッジは実例を使って、分かり易く説明している。

それは、彼が、当時、遂行していた「蒸気コンピュータによる、全自動的な計算で、対数表を作る」というプロジェクトであった。

そして、これらの事を説明するために、バベッジは次の様に議論した。

(D) 三つの時計による説明 (§249): 階差機関と解析機関

(B-C)での数学的な話を受けて、次に、この数学的計算が、機械により実行可能であることが示される。そして、彼の階差機関への言及が行われる。

バベッジは、この節で、むしろ、それが彼の最大のプロジェクトであったはずの、機械による人間の知的労働の代替について議論しているのである。

しかし、ここで、今見ている史料だけでは、その全体像が理解できない。そこで、以下で、バベッジの蒸気コンピュータ計画について説明する。

階差機関:The difference Engine

階差計算の能力 advancedな話題

注. 階差計算を機械に実行させるというアイデアは,バベッジ 以前にもあった

階差機関はなぜ生まれたか

なぜそうまでして数表のエラーを避けねばならなかったか?

解析機関: The Analytic Engine

分業と計算機 (250)

分業と資本 (251)

(E) 鉱山における労働力の配分 (§252)

この部分は、バベッジの執筆の意図が、まだ、分かっていない。そのため、ここでは、これについてのコメントは差し控える。

バベッジの裏返しとしてのマルクス資本論における「分業論」

正確に言えば阻害論であって分業論ではないので「分業論」の様に括弧を付けた。

以上の分析で、最近、多く見られる「AIが知的仕事を奪う」という議論が、すでに1810-30年代のイギリスでバベッジの原理という、資本の論理と手を携えながら、登場していたことがわかる。つまり、労働者を機械部品とみなす現代資本主義と知的機械、ITやAIは、二卵性双生児だった。

そして、バベッジの On the Economy of Machinery and Manufactures の四半世紀後、バベッジが住んだ同じロンドンの大英図書館で、バベッジの分業論などを手がかりにしつつ、この「機械的仕事をする部品の様に使われる労働者」の問題を、バベッジと反対の側、つまり、労働者側から見て、後に20世紀の歴史を揺るがすことになる、一巻の経済学書を綴っていたひとりの亡命ドイツ人(プロイセンのユダヤ人)がいた。

それがカール・マルクス。そして、彼が書いていた経済学書こそが「資本論」。

実は、資本論の数か所でバベッジの On the Economy of Machinery and Manufactures が引用されているおり、それらを元にスタンフォード大学の経済史家 N. Rosenberg はバベッジの分業論がマルクスに影響を与えたと指摘した。以下、その話の解説。

今回の資料

マルクス主義、唯物弁証法、とくれば、階級闘争、プロレタリアートとブルジョアジーの対立の問題が思い起こされるが…

その様な、「バベッジの夢=マルクスの悪夢」が実現された社会は、どんなものか?

トヨタ、アマゾンという資本装置がブンブン唸っている現代日本社会は、「バベッジの夢=マルクスの悪夢」なのだろうか?

以下、これを社会学の理論を幾つか使って考えていく。

まず映画から入る

まずは、今は「遠い」過去のものになっているマルクス主義世界観を体感するために、マルクス主義世界観のもとに作られた、最初期のSF映画の傑作といわれる映画「メトロポリス」を見る。

無声映画でもあり、ストーリーが良く分からないと思うので、林が説明しつつみる。講義では、時間の関係で、全体を見ることはできず、ポイントだけを見る。特にポイントは、リストにしてあるので、これを参考に、できれば自分で全部見ておくと良い。無理ならばポイントだけでも見ておくこと。

鑑賞の際に、参考となるサイト:    特に登場人物の地位と、力関係、どこにいるか、特にその場所の高度に注意(場所が地位のメタファーになっている。機械の方が労働者より上…)。

Metoropolisの粗筋

Wikipedia から

別のサイト

登場人物

Metropolis Rescore

Metropolis Rescore はオーストラリアの作曲家Benjamin Speed が The New Pollutants というグループ名で、Metoropolis にサウンドトラックを付けたもの。

2時間27分12秒という長さからして、ブエノスアイレス版と思われる。

YouTube にあるので無料で見ることができる。画質もよい。

これを見る。

カラー化されたMetroplis: カラー化でかえって見にくいところもあり、また、ドイツ語版なので、以下では、英語版のモノクロ映像を使う。

鑑賞のポイントのリスト

  1. 現代(当時)の象徴としてのマシン 1m40s
  2. 労働者のシフト 2m23s 個性をはく奪され疲れ切った労働者たち
  3. 労働者の住居は Deep Blow に 3m49s
  4. Deep Below の逆 High Above 5m15s
  5. Maria の登場 「御覧あれがあなたたちの兄弟よ」 8m24s
  6. 恋に落ちた Freder は地下へ 11m56s
  7. M-machine (Heart machine) の暴走 12m54s
  8. 新バベルの塔とメトロポリス 16m14s
  9. メトロポリスの「頭脳」で 17m26s
  10. Josaphat 君、これはどういうことだ?19m45s 情報と命令のオーダー
  11. 労働者のチーフ Grot の登場 怪しい地図がまた二つ 24m42s
  12. 怒る Frederson. その理由は? 25m5s
  13. Josaphat君、君はクビだ 26m43s
  14. Rotwang キチガイ科学者 36m48s
  15. 秘密の集会 48m59s
  16. ロボット Maria 1h22m40s
  17. 扇動 1h38m42s
  18. 労働者の蜂起 1h45m20s
  19. Heart-Machine (M-Machine) を壊せ! 1h51m08s
  20. Heart-Machine (M-Machine) の暴走 1h52m58s
  21. 冷却水が… 1h54m28s
  22. 子供たちの危機 労働者の住居区は M-Machine の下にある 1h55m0s
  23. 子供たちの救出 1h59m35s
  24. 和解 2h22m52s
  25. Head, Hands and Heart 2h24m07s

分析

現実の歴史では?

以下次回以後に続く…