「情報技術の現代史」メモ 2019.04.18

質問票への回答のための資料

  1. 前回最初の方でマイクをOFFにしたまま講義をしてしまい、そこで何を話したかという質問が複数ありました。
  2. レポートとレポート相談会の日程についての質問がいくつかありました。
  3. 声が小さいとの指摘が複数。
  4. 楽天とアマゾン
  5. アマゾン以外の配送

前回の資料

この講義の内容と目的

この講義の主テーマは、近代資本主義と情報技術の関係です。情報技術の歴史は近代資本主義の成立と深く関わっている、それを理解してもらうことが、この講義の大きな目的となります。

そして、それを理解することで、今まで起きてきたこと、今起きていることの「理由」を知ることが出来て、そのことが理解できれば、未来に置きそうなことも、ある程度は見えてくるということを知ってもらう。それが、この講義の最終的目的となります。

新技術が生まれて、それにより社会が変わると思われがちですが、社会が変化するために、新技術が生み出されてきたのが、現実の歴史です。そういう意味では、情報技術は近代資本主義を成立させるために生まれてきた技術といえるのです。

この情報技術と資本主義の関係を、古い文献も使いながら歴史学的に示します。そして、その事実を踏まえて、歴史を振り返ることにより、AIが当然となる近未来の社会の様子、特に格差問題、労働問題についての予測を行います。

資本主義が関連するために、この講義では、情報技術についての歴史資料だけでなく、経済学・経済史などの歴史資料も取り上げます。

また、一世紀ほど前の機械文明の時代の社会と技術の関係と、現代社会の社会と技術の関係を比較するために、両方の時代の映画を見て、その表象論的分析を行います。これは、映画の表現に現れる、各時代の考え方を分析して、それを比較するということです。これにより、ITの時代である現代におけるITの社会的意味を理解します。  

歴史を紐解いて、現在の社会についての問題を考える社会学、また、社会学理論をつかって歴史を理解する、そのような研究分野があり、歴史社会学などといいますが、この講義は、実は、その一種です。そのため、歴史学だけでなく、理解のための方法論である社会学の入門的な話もします。

AI, ITが生み出す格差、そのルーツは19世紀のイギリスに!

多くの仕事がAIに奪われるのではないかと心配する声が大きくなっています。多くの人が失業すれば、日本社会でも問題となっている格差はさらに広がります。

AIだけでなく、ITの進歩により格差が広がる、これは、確実なことですし、現在の格差も、実は、ITや、一見、ITには見えないが、その実、同じ仕組みで動いているもの、広い意味でのITによって生み出されている面が強いのです。

実は、このIT、広い意味でのITによる格差の問題のルーツは、19世紀ビクトリア朝の英国にもとめることができます。

コンピュータの先駆者であり、また、現代的経済学の先駆者でもあった、チャールズ・バベッジという人は、バベッジの原理とよばれている「格差を利用して資本家がもうける方法」を発明したばかりか、この原理によって資本家の儲けのために、低賃金で働かされる労働者たちを、最終的には、彼が作ろうとしていた蒸気機関で動くコンピュータで代替することを考えていたのです。

講義では、このことを、スタンフォード大学の経済史家 N. Rosenberg,の著書や、イギリスの科学史家の歴史解説、そして、バベッジ自身による、経済学書を使って、厳密な歴史学の方法で説明します。

そして、この19世紀の歴史的事実と、2000年に日本でのビジネスを開始した Amazon の日本での歩みとを比較します。

講義では、まず、アマゾンの配送センターの2005年ころから現在までの姿と、その進化を、色々なネット上の動画や記事、そして、アマゾンが日本に上陸したころのTVニュースなどを使って見ます。

そして、その後で、バベッジの話をして、これらを比較することになります。

では、まず、現代のアマゾンの話からはじめましょう。

アマゾンの配送はなぜ早い?

(シラバスでは「アマゾンの箱は何故大きい」となっている項目)

アマゾンで注文すると、早いときには、当日に届くことさえあります。

なぜ、こんなことができるのでしょうか?

楽天では、こうは行きません。

これはパケット(段ボール箱)を運んでくれる宅配業者の問題でしょうか?

それは、ありえません。アマゾンも、楽天も、同じ様な宅配業者に頼っているからです。

宅配は、驚くほど速いのです。

ということは、アマゾンと楽天の差は、荷物(パケット)が宅配業者に手渡される前、つまり、発送の前にあることになります。

それは、現在の、最新のアマゾンの配送センターでは、この様になっているのです。

この動画は、昨年の10月に改行した、日本で2番目に Amazon Robotics というロボット技術を導入した(一番目は川崎FC)、アマゾンの配送センターアマゾン茨木FCの動画です(茨木FCの位置)。

この動画の「動く棚」が、Amazon Robotic のロボットなのですが、それが、アマゾンの配送で、どんな役割をしているのか、手前に立っている「茨城FC」という制服を着ている人は、なんの役割をしているか、これを理解することが、上に説明した19世紀のイギリス、ビクトリア応用のIT、バベッジの蒸気コンピュータと、現代資本主義の関係を理解する鍵となります。

しかし、それは、アマゾンの他の配送センター特に、日本に上陸したばかりの頃の配送センターの仕組みの理解から始めると分かりやすいので、この動画の詳しい説明は、今は避け、古い話から始めましょう。

アマゾン茨木FCは「最新」の場合で、多くの配送センターでは、いまだに人間だけで同じことをしています。

その人間を、「ピッカー」とか「ピック」と言います。

その実態を見てみましょう。

Amazon.co.jp FC14年の「進化」の歴史を見る

上で見たロボットを使う発送作業は、Amazon が、フルフィルメントセンター Fulfillment Center略して FC と呼ぶ配送センターで行われている。

日本にも、多くの配送センターが存在し、その内の最前線が、上にしめしたもの。

アマゾンの配送センターの内、一番古いものが、千葉市川FCで2005年の開業。

2005年から今年までの14年におけるFCの進化を見る。

そのために、まず、2005年開業の千葉市川のFCと2009年開業の関西初のFCである、堺FCについてのTVニュースの動画を見て、現在も主流のロボット無しのFCの仕組みを知る。

ポイントは、バラバラの配架と、ピッカーと呼ばれる人々。堺FCの動画は、以前は、自由に鑑賞できたが、数年前にコピーライトの問題で削除された。そのため、林が保存しておいたものを見せるので、WEB上の講義資料では閲覧できない。コピーライトの問題で配布ものできないので、講義中にしか見せられない。

それでは、ロボットが導入される前のFCの話から…

Amazonの配達は超高速

注文したら、翌日には、早ければ、その日の内に、商品が届くのが、Amazon.

現在は、楽天のあす楽など、Amazon 以外の会社の配達も早くなっているが、未だに、楽天で出店している個人商店などでは、なかなか、こうはいかない場合が多い。

また、Amazon は在庫が実店舗の小売店より、豊富で、さらに価格が低いことも珍しくない。(Amazon自身は、価格が低いというのは否定しているらしい。)

なぜ、この様なことができるのか?

その理由は色々あるが、最大のものは、FCという存在。

そして、このFCは日夜進化し続けていて、その進化にも、「ITと現代資本主義の関係」が見て取れる。

ということで、まずは、Amazon のFC、Fulfillment Center の仕組みを理解する。

Amazon 高速配送の仕組み

FCという巨大マシン

Amazon FC というマシンと人間の関係を分析する

次回、Amazon FC は、ピッカーという人間を部品とする巨大な一つのハードディスクの様な機械であることを示します。

以下、次回…

講義の仕方

最後に、講義の仕方を説明して、今回は終わりです。

採点は、1回のレポートと出席でつけます。レポートが95点、出席が5点です。

出席は、これから配る質問票というものを使って採点します。

次の画像の小さな紙片が質問票です:

質問票は、基本的には、みなさんに質問をしてもらうためのものです。

しかし、これを出席点の評価にも使います。

質問票には、必ず、氏名と学生番号を書いてください。

講義が終わる5-10分ほど前に、質問票タイムを設けます。

その5-10分の間に、氏名と学生番号と、そして、質問を書いて提出してください。

そして、講義室の一番下の机、つまり、一番演壇に近い机の上に、次の画像のような折り紙の箱を6個ほど置きますので、それのどれかに自分の質問票を入れてください。

次の画像の様に、箱と縦横を合わせて入れてください。

こうして提出してくれた質問には、次回の講義の冒頭に答えます。

氏名、学生番号を書いてもらうのは、わずか5点ではありますが成績の為と、責任をもって質問をしてもらうためです。

みなさんの質問には、できる限り答えます。

登録者数が、今の時点で400近くと多いので、大変なのですが、ちゃんとやります。

是非、分からなかったところ、疑問に思える点、自分で考えた意見、そういうことを質問票に書いて提出してください。

また、4月25日に休講を予定しており、その替わりの補講、実際には、レポートの相談会を7月に実施する予定です。詳細は、皆さんの意見や出席数も考慮して決めます。

ここから今回の資料

Amazon FC というマシンと人間の関係を分析する

ピッカーという人間部品

ピッカーの役割

Amazon FCは人間を「ヘッド」として使う巨大ハードディスク :ピッカーの自然な認識を封じ部品化するための1フィートルール

次に、この様な「人間を部品とするマシン」とする「分業」というアイデアが、アダム・スミスの「国富論」に現れ、それがコンピュータのパイオニアといわえる19世紀英国ビクトリア王朝時代の、万能学者チャールズ・バベッジにより、「格差を利用して設けるマシン」の原理に変えられ、かつ、バベッジが、それをコンピュータと関連付けて考えていたことを、歴史史料を使ってみる。

アマゾンは無人化を目指している?

アマゾンは、すでに一部の倉庫を大幅にロボット化しており、日本でも、川崎FCを始めとして茨木などにロボット化FCができたことは既に話した。この秋には、京都府初の京田辺FCが稼働を開始する予定だが、これもロボット化FCである。

アマゾンの理想は、無人化FCであるらしい。このアマゾンのロボット研究者へのインタビューでの

「どちらかというと「協働」を実現したいと思っています。今回の競技を見ていただいてもわかる通り、完全自動化までの道のりはまだまだ遠いのです。」

という発言に注意。これは完全自動化なのか、人間と機械の協働なのか、と問われての答。

「まだまだ遠い」ということは、その遠い目標を目指しているということ。

つまり、アマゾンの目標は、FCの完全自動化、完全無人化。

ちなみに、上のロボット研究者の発言は、2017年に日本で開催されたアマゾン・ロボティクス・チャレンジという無人化ピッキング技術のコンテストでのインタビューでのこと。

この競技会が、2018年にはキャンセルされている。おそらく、このことは今の段階では、完全自動化のための技術が十分育ってないとAmazonが判断していると思われる。

その一方で、茨木FCや京田辺FCの様に、大量のロボットを導入して、大幅にピッカーの数を減らしたFCが続々と建設されていることは、完全な無人化は無理でも、大幅な省人化のための自動化技術が実用化されていることを意味している。

分業と自動化

このアマゾンのピッカーが象徴としているのが、アダム・スミスに始まるとされることが多い近代資本主義の生産様式の象徴ともいえる「分業」の概念。(参考「世界史の窓*、「池上彰のやさしい経済学」)

そのアダム・スミス(国富論、1776年出版)の、およそ60年後、同じ大英帝国のチャールズ・バベッジが、さらなるスミスの分業論を進化させたと主張した新たな分業論を、その著

On the Economy of Machinery and Manufactures 1832

で発表。

この著書で、「機械部品」としての労働者の概念が明確となる。

バベッジは、工場の全自動化を目指していた。

バベッジは、彼の新分業論「バベッジの原理」を、彼が作ろうとしていた蒸気コンピュータと対比して説明している。

そして、この「労働者にとっての悪夢のシナリオ」は、バベッジの書を読んだ、ロンドンの亡命ドイツ人、

カール・マルクスの労働論に強い影響を与えたといわれている。

ここまで現代の話ばかりだったが、ここから歴史の話に入る。

まずは、情報技術史の有名な「エピソード」で、その昔、コンピューターは人間だったという話から始める:

これらは、「こんな大変なことが現代のコンピュータで簡単にできるようになりました、すごいですね!」とか、「現代のコンピューティングの技術は案外古い時代からのものを継承している」という「驚きのエピソード」として、情報史の教科書などで紹介されることが多い。

しかし、実は、その経緯をより古い時代に遡り、経済学史、社会学などの研究や理論を使うと、情報技術と現代社会の関係がまったく違って見えきて、これらのことが Amazon FC に、そして、現在問題となっている「雇用の未来」の問題にも繋がっていることがわかる。

その「より古い時代」とは、大英帝国という「日が沈むことが無い帝国」が絶頂期にあった19世紀半ばのヴィクトリア朝のことであり(質問票への回答の資料の4のシティバンクの話と比較してみて下さい)、場所は、その大英帝国の首都ロンドンである。そして、主要登場人物は、英語圏ではスチーム・パンクのヒロインとして人気があるエイダ・ラブレス(Wikipedia)とともに、スチーム・パンクヒーローとして知られ、コミックにも登場するチャールズ・バベッジ。まず、日本では、無名に近い、このパベッジの話から。

参考(英語圏と日本語圏での認知度の違い)

チャールズ・バベッジ:スチーム・コンピュータと部品としての人間

後に学ぶウェーバー社会学やマクドナルド化理論では、近代の特長を形式合理性にみる。そして、形式合理的システム、あるいは、形式合理的な思考法とは、

と言える。

形式合理的システムの非人間的側面を、ピッカーのような、通常、「労働者」と呼ばれている人たちの側から見たら、

のように見える。

また、それを、今は、もう流行らないマルクス主義の立場からみれば、

となる。

チャップリンが1950年代のアメリカの赤狩りの中で、アメリカ国外追放になったのは、この眼差しの類似性のためだった。

しかし、これを「労働者」を使う側、つまり、通常「経営者」とか「資本」と呼ばれている側から見たら、これから紹介する

での議論のように見える。

アダム・スミスは有名。

しかし、チャールス・バベッジ Who?

チャールズ・バベッジとは? 

19世紀イギリスの数学者

しかし、現在一番有名なのは「コンピュータの祖」としてのバベッジ

  「現代経済学の先駆者としてのバベッジ」と「コンピュータの祖としてのバベッジ」は深く関連していた。

 

バベッジの先駆者アダム・スミス

しかし、実はルーツはさらに古い。

バベッジの思想は、資本主義思想から生まれたものであり、そのルーツはアダム・スミスの「国富論」であることが、歴史資料の検討から分かる

これを以下では歴史の順番、つまり、アダム・スミスから時間の順番で説明する。

後代になると分業論の議論が段々複雑になるので、一番簡単なスミスの分業論から始めるのがわかりやすいために時間順で説明する。

分業論とその祖 アダム・スミス

経済学で「分業論」と呼ばれているものがある。その祖はアダム・スミス。

彼の分業論でアダム・スミス(そしてバベッジ)は、次の様なことを主張した。

熟練工が行なう仕事を分析して分解すると、その一つ一つは案外単純である。

その様に分解された仕事は、同じ仕事の繰り返し(単純労働)になり、熟練した職人が行なう必要はない。

だから素人でも仕事ができる。

だから技能のない人に仕事を提供できる。

また非熟練工は労賃が安い(取替えが効き、たくさんいるから)。

だから、雇用者側はより少ない出費で生産ができる(効率化)。

一人の労働者の仕事の種類は多数でなく一つに限定する方が労賃の観点からは経済的。

仕事が効率化するので余剰の時間ができて、高度の頭脳労働(研究・開発)を行なえる。

以下、これを詳しく説明する。

分業論の始まり:アダム・スミス「富国論」の分業論

アダム・スミス国富論 1776年刊

有名なピン製造所の分業論の要旨(ピンとはheadpinのことらしい。あるいは、こんなの?)

国富論・分業論における労働者(職人)への視線

そしてバベッジの分業論

以上のような、18世紀(1776年)スコットランドのアダム・スミスの分業論に対して、19世紀(1833年)のイングランドのバベッジは分業論をさらに展開した。そして、それはスミスのものと異なり、労働者の人間性を殆ど顧みないものだった

熟練工が行なう仕事を分析して分解すると、その一つ一つは案外単純である。

その様に分解された仕事は、同じ仕事の繰り返し(単純労働)になり、熟練した職人が行なう必要はない。

だから素人でも仕事ができる。

だから技能のない人に仕事を提供できる。

また非熟練工は労賃が安い(取替えが効き、たくさんいるから)。

だから、雇用者側はより少ない出費で生産ができる(効率化)。

一人の労働者の仕事の種類は多数でなく一つに限定する方が労賃の観点からは経済的。

仕事が効率化するので余剰の時間ができて、高度の頭脳労働(研究・開発)を行なえる。

以下、これを詳しく説明する。


続く…