情報歴史社会学入門メモ(10) 2014.06.11

前回までの資料から

ウェーバー官僚制論

ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Anthony Giddens, Sociology,7th edition, p.826 の記述を使って説明したもの

  1. 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。
  2. 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。
  3. メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 
  4. 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。
  5. 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。

注意:ギデンズの説明を、さらに林が纏めたもの。ウェーバー自身の言葉やリストによるものではない。たとえば、ウェーバーは「ピラミッド型」「トッ プ・ダウン」などの現代的用語は使っていない。これはギデンズによる。ウェーバーの元の説明は、ギデンズのもののように判り易くはない。

ウェーバーの官僚制の意味するもの

ウェーバーの意味の官僚制とは官僚という人間を部品とする組織機械のための設計思想

ここから今回追加した資料

官僚制の悪口に使われる

は、それが人間という生身の存在を部品とする機械なのだから当たり前!丁度、バベッジとマルクスの分業論がローゼンバーグが弁証法的な裏返しとジョークを飛ばすほど似ているが表裏一体なのと同じ。

官僚制システムが効率的な理由と今まで見て来たものとの関連

官僚制システムの効率性の源その1 人間的要因

官僚制システムの効率性の源その2 組織構造的・情報学的要因

実は、上のような話と全く違う、数学のような仕組みが官僚制の効率を支えている。

それは分業ということ。また、分業の効率性の根源は、「ツリー状、ピラミッド状の構造の効率性」ということ。

その「ツリー状、ピラミッド状の構造の効率性」の象徴は対数(高校では数学II?)というもの。

 対数は指数の逆。対数関数は指数関数の逆関数。

ツリー状・ピラミッド状のシステムとは

官僚制のシステムの説明で、それが形としてはピラミッド状、ツリー状だと説明した。

その意味は?

まず、ピラミッド状とツリー状の意味

ピラミッドとツリー(木) 一見なにも似ていないが??

ITにおけるツリー状ということの意味

ツリー状とピラミッド状は同じ意味 

今までに出てきたツリー・ピラミッド構造

ドプロ二―プロジェクトの人員配置だけでなく階差計算自体がツリー・ピラミッド構造を持っている

以後、ツリー・ピラミッドと言わず、単に、ツリーという。

なぜツリーは効率がよいのか?

いろいろな要素を無視して、簡単にいってしまえば、ツリー構造は仕事を分解する、つまり、分業化するということ。

ドプロニープロジェクト、階差計算がツリー構造をしているのはすでにみた。

これは仕事を分解して簡単な仕事に還元することにより、それを非熟練工に行わせていた。

仕事のプロセス、仕事を行う組織の双方に、分業化の構造が反映され両方ともツリーになっている。

仕事は分解すると効率が良い!

その理由は倍々ゲームの裏返しになるから

倍々ゲームとは: またの名をネズミ算。 曽呂利新左エ門 の話(湖を覆う水草の話としても有名)。

倍々ゲームは人間の直観を超えるスピードで増加する。

それならば、一回ごとに半分になる「半々ゲーム」だと、直観を裏切るくらい小さくなるはず。(これが指数関数!倍々は対数関数

たとえば、900を半分半分にしていくと。

1 900
2 450
3 225
4 113
5 57
6 29
7 15
8 8
9 4
10 2
11 1

しかし、これでは全然すごく見えない…

そこで、これと同じことを、辞書で単語を引く、つまり、辞書という単語データの蓄積の中から、希望する単語を検索する、ということでをやってみる。

みなさんは辞書(紙の辞書)をどうやって引いているだろうか?

もし、機械的にやるとしたら、次のようにすればできる。

 

実は、これは2分探査木と呼ばれるツリーの構造になっている。

実演に使った辞書は11万項目ほどある。ページ数は1800なので裏表2ページのシートは900枚。

11万の単語が辞書の順序に並んでいなければ、Schwan を最悪の場合、11万語と照らし合わせる必要がある。

それが今の実演のようにすぐに見つかったのは、半々ゲームにより、探すべき範囲が急速に狭まるから。

サーチと人間の組織としての官僚制や官僚制的な組織との関係

京大の総長と理事。実はこれはツリーの一段。この下に理事補などがある。

ツリーの全体像

会社、政府、NPO、NGOなど、さまざまな機構や組織もすべてツリー。

基本的に組織の長の仕事の多くは、仕事を部下に割り振り指示を行うこと。

教育関係の仕事は教育担当に理事に振られ、その時点で他の理事は、その仕事と無縁となる(ただし、原則の話)。
これはSchwan を探すとき、半分にわけたページの片方が、「その中に Schwan はない」とわかって検索の範囲から
除外されるのと同じこと。

膨大なデータのうち、関係ないものを大量かつ高速に捨てていく(逆の言い方では関係があるものだけを絞り込んでいく)
ことができるかどうかが、高速に大量のデータ(仕事)をこなすポイント。

ツリーは、このように使われる。

この技法は、ITでは「分割統治」 divide and conquer とよばれるが、これはローマ帝国の統治方法のこと。
歴史上の大帝国のほとんどは、この方法を使って広大な領土や征服した民族を統治している。
元寇のときに攻めてきた兵隊が実は韓半島の人々だったというのもそれ。他にはオスマン帝国など。

つまり、近現代の統治装置、官僚制のツリーも、基本的には同じ仕組み

ここから今回追加の資料

ツリー構造には、深く関連しながらも異なる二つの側面がある:

側面1は、ツリーの図などを使いながら上で説明した話。つまり、アダム・スミス、バベッジ、ド・プロニーの分業の効率性のこと。

側面2はウェーバー官僚制の定義で話した内容の幾つかを言い換えたもの。

ツリーとしての官僚制の欠点と Japanese model による改善

先にギデンズの日本型モデルの話をしたが、ギデンズが日本型モデルの特徴としたものは、実はウェーバーの官僚制論の「官僚制の特徴」、特に側面2の特徴に反するものだった。

ウェーバーが「現代的」官僚制の特徴として挙げた条件を Anthony Giddens, Sociology,7th edition, p.826 の記述を使って説明したもの(先に示したもののコピー)

  1. 職権の階層構造:官僚機構はピラミッド構造を持ち、トップから 底辺へ命令が整然と流れる。各メンバーは、その直下のメンバーをコントロールする。 いわゆる、トップ・ダウン型意思決定で動くということ。
  2. 成文化されたルールで動く。ただし例外はあり、より上位のメンバーは、より多くの意思決定の自由を持つ。
  3. メンバーはフルタイムの給与制で雇われる。給与は「職」により定義される。 
  4. 成員の「生活」(人生)は、その「職」と分離されている。
  5. 官僚制システムのメンバーは、そのシステムの所有者ではない。

これに対してギデンスの日本型モデルは、次の5つを特徴とした from Giddens "Sociology":

  1. ボトムアップ型意思決定
  2. 非専門化傾向
  3. 確実な雇用
  4. グループ生産
  5. 仕事と従業員の個人的生活の融合

以上の5つを説明

小泉改革あたりからかなり様がわりしているが、日本の工業の強さが世界的に注目されて、21世紀は日本の世紀に なると言われていた Japan as No.1 の時代(一九七〇年代終わりからバブル崩壊まで)、日本企業の強さの原因としてあげられたものに次のようなものがある:

「グループ生産」以外は、これらの特徴が、ギデンズの1-5に相当する、あるいは、それを導くことがわかる。

そして、これらの多くが官僚制という言葉が与える「冷たい」「非人間的」「機械的」な印象に反するものになっている。

しかし、日本型モデルでもツリー状の構造は殆ど崩れていない

日本型システムは実はツリー状の官僚制の持つ欠点である硬直性を、色々な工夫で緩和したものとなっている。

たとえば社員食堂で社長と新入社員がたまたま隣り合わせて、職場の問題点を話し合う情況は、ツリーのトップのノードとずっと下のレベルのノードが直接に結び付けられているということ

これは言ってみればPCのフォルダのずっと下のファイルへのショートカットがあるようなもの。しかし、ショートカットを作ってもフォルダーのツリー構造が崩れているのではない。 (このリンクは、WEBで掲示したものでは見ることができません。)

このアナロジーからすれば、日本型モデルのボトムアップ型という性格の一つの実例はツリー状のフォルダー構造での、上と下で遠く離れたフォルダー・ファイルを簡単にアクセスできるようにするショートカットのような工夫だといえる。

官僚制の本質を完全に崩したわけではない。たとえば、日本の会社にもやはり社長、重役、部長、課長、係長という職階はある。

日本型モデルと感情労働: ブラック企業問題

ブラック企業が問題となり、昨年からは厚生労働省、労働局なども調査をするようになった。   

実は、このブラック企業が日本型モデルの負の側面が顕在化したもの。

日本型モデルは、官僚制が切り捨てた感情を、生産のために再導入した。それがブラック企業を生む結果となった。

そして、実は、日本に限らず、現代は、この「生産のための感情」「競争に勝つための感情という燃料」の問題が大きくなっている時代。

これを、社会学の「感情労働」の理論を使い分析する。

続く…

機械文明から、情報社会、さらには、SNS,感情労働、生命工学の時代へ。(HANDからBRAIN,そして、HEARTとLIFEへ)